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翌日、ブッシュはサーカスの宣伝も兼ねて街へと出た。派手でゆったりとした服に身を包み、二股に分かれたとんがり帽子を被り、手に持った鈴を鳴らしながら歩く。
「さてさて皆さん、街の外れにサーカスが来ましたよ。
今日の夕方から開演でございます。子供も大人もお年寄りも、みんなが楽しいサーカスにおいでませ!」
時折、興味を持ったらしい子供に寄ってこられたり、珍しがった様子の大人に声を掛けられながら、ブッシュは当たり障りのない会話をする。
ふと、話し掛けてきた人のうちひとり。裕福そうな服を着た婦人に目が留まった。正確には、婦人が胸につけているブローチが目に留まったのだ。
「サーカスがこの街に来るなんて久しぶりだわ。あなた達は、四年前に来たサーカスと同じかしら?」
婦人がそう訊ねると、ブッシュはにこりと笑って返す。
「いえ、我々がここに来たのは十年以上前ですね。とても久しい街ですが、是非おいでになってくださいまし。
ところでご婦人、素敵なブローチをお着けになっていますね」
きっと自慢のブローチなのだろう、目に留めて貰えて喜ぶ婦人が、こう答えた。
「素敵でしょう。これ、ジュエリーショップで一目惚れしたのよ」
婦人がつけているブローチは、シルバーで枠が作られ、ガラスのカボッションの下に繊細な細工を施した、虹色に光る髪が据えられているという物。ブッシュはそれの詳細を婦人に訊ねた。どこの店で買ったのかとか、そう言う事だ。
ひととおり購入した店の情報を手に入れた所で、ブッシュは婦人に礼を言い、頭を下げる。
「詳しいお話を聞かせて下さりありがとうございます。美しいご婦人。
よろしければ、そのブローチと一緒に、サーカスを観に来て下さいませ」
そう言って婦人と別れたあと、ブッシュはまたサーカスの宣伝を続けたのだった。
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