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サーカスの宣伝をしながら、ブッシュは先程婦人から聞いたジュエリーショップを訪れた。ジュエリーショップと言うだけあって手入れが行き届き上品な雰囲気が有るけれども、こぢんまりとした店だった。
中に入ると、店の主人らしき人が、怪訝な目でブッシュを見る。確かに、ブッシュの姿はこのジュエリーショップにはそぐわない物だ。
しかし、痛い視線も物ともせず、ブッシュは店内を見て、あるネックレスに目を留める。それは、あの婦人がつけていたブローチのように、シルバーで枠を作り、ガラスのカボッションの下に虹色の髪があしらわれているという物だった。
ブッシュが主人に言う。
「このネックレス、随分と素晴らしい出来ですが、この中に入っている髪はどこで手に入れなすったものですか?」
すると、主人は自慢げに答える。
「珍しいでしょう。随分と前に、素材として手に入れたんですよ」
「へぇ、素材として」
どこで手に入れたのかは口にしない主人に、ブッシュはまた訊ねる。
「どこで手に入れたのかは、言えない感じですか?」
にやりと笑うブッシュに、主人は口ごもる。
ブッシュは、今度はおどけた口調でこう言った。
「大丈夫ですよご主人。オレとご主人だけの秘密にしましょう。他のお店に知られたら、競合してしまいますもんね。
でも、オレはこのネックレスにとても興味がある。
ああ、どこの誰の髪だかわかったら、買わずにはいられないなぁ」
それを聞いた店主は、ブッシュの元に歩み寄ってきて、耳元で小さくこう囁いた。
この街で活動している、人身売買組織から、この髪を買ったと。
ブッシュはにこりと笑って主人に礼を言う。
「それでは、約束通り、このネックレスはいただいていきますね。
ああ大丈夫。オレとご主人の秘密ですよ。大丈夫」
そう言ってブッシュは、代金を払って店を出た。
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