4.正体

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リビングのガラス戸の前で子うさぎは悲しそうに俯いていた。空は暗くなり始めている。加えて今おじさんは仕事でいないため、家の中が静かですごく寂しい。 実を言うと、子うさぎにはもう林に帰りたいという気持ちはない。それどころか、今はおじさんの家が自分の家だとさえ感じていた。 子うさぎは、2週間の日々を思い出す。それに色濃く残っているのは、やっぱりおじさんの存在。 自分を救って優しくしてくれた大きな手。温かい温もりや、楽しそうな声……。 __やっぱり、帰りたくない。 実際に言葉にしてみて、そうなんだなと子うさぎ自身も実感する。 自分は、林に帰りたくない。もっとおじさんと一緒に遊びたい。きれいな笑顔だってもっと見ていたい。ずっと隣にいたい。 自分でも無意識のうちに、想いがどんどんあふれてくる。 この気持ちを伝えたい。でも、人間の姿で会う勇気はまだなくて…。 __このままじゃ、本当に会えなくなっちゃうのに……。 どうしたらいいか分からず、子うさぎは泣き出しそうになった。 その時、暗かった部屋が光に照らされて明るくなる。思わず子うさぎは顔を上げた。 見ると、空を覆っていた雲が少し開けている。その隙間から見える“モノ”を見た子うさぎは、はっと目を見開いた。 部屋を照らしていたもの――それは満月だった。
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