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4生贄の正体
鉄格子に注がれる光。セラは眩しそうに瞼を擦ると、身を持ち上げた。視線を巡らせ状況を確認する。同乗者の姿はない。
セラは驚くこともなく、開け放たれた扉から外に出た。
山を下る澄んだ風と流れる白い雲。足元には背の低い草花が踊り、緩やかに続く斜面いっぱいに緑の息吹が溢れている。
周囲には檻が五つ。馬も車輪もない、ただの四角い箱が残されている。どれも空で人の姿はない。解錠されているため、全員外に出たのだろう。
広がるのは、生贄の行き先にそぐわないのどかな風景。
ボールを奪い合う子ども達。全員性別は男。走るだけで疲れてしまう幼子から、ボールを奪い合う成人まで、歳はまばらだ。
その中で目立つ、やけにひょろ長い人物。夢中でボールを追いかけていたが、他の子どもに取られると、諦めたのか足を止め、こちらに手を振った。
呆れながら、セラは相方と合流する。
「いやぁ、最近の子は元気ですね。つい本気になっちゃいました」
「耳、取れたのね」
「無理矢理すっぱ抜きました。姫様は、よく眠れましたか?」
「だから」
「姫様って呼ばないで。はい、すいません」
子どもの群れは斜面を下って行く。先に見えるのは転がるボールと静かに流れる沢。中に落とすまいと、必死に玉を追っている。
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