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セラは懲りずに、騎士の目を盗んで世界王の姫君について調べ回っていた。
巨大な翼竜が年に一度山奥に現れ、子どもを閉じ込めた檻をどこかに運ぶ。狩人や、森の麓の住人など、目撃情報が相次いでいるのだ。
生贄提供に住民がやけに素直なのは、この竜の存在が大きいとセラは考えている。
竜がいるならば、噂の姫もいるに違いない。
そんな暗黙の了解が街中に浸透しているのだ。
「それに、もしかしたら私のよく知る竜かもしれない。昔旦那様と懇意にしていた竜の特徴によく似ているのよね」
「王様の竜ですか? 確かに、各地から子どもをさらってましたけど、未だに人さらいをしているなんて考えにくいですよ」
「何百年も経つものね。でも、何か理由があるのならはっきりさせておかないと。私の亡霊が悪さをしているようで、気味が悪いわ」
シエラは訳が分からない、とでも言いたげな気難しい表情を浮かべ、双方の会話に耳を傾けている。二人はシエラの様子を気にすることなく、自由に会話を続けている。
「それにしても。生贄って言うから大層な扱いかと思いきや、尾行には誰も気づかないし、檻に鍵をかけ忘れて見張りは離れるし。わりとずさんね」
鍵が、開いている。
つまり、出入りが自由ということ。
シエラはそっと出入口へ目をやる。薄らと開いた檻の繋ぎ目が、囚われる者を手招きして誘っている。
ここを飛び出して街へ逃げ帰るのも、このまま震えて生贄になるのを待つのも、個人の自由。なら、生き残れる可能性のある方に賭けよう。
シエラは衝動のままに馬車から飛び出した。セラとレオは隼のごとく駆ける背中を、黙って見送る。
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