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数歩も進まないうちに、彼女は馬車に連れ戻された。
派手な逃走劇。離れていた見張りはすぐに気づいたに違いない。
今日のために雇われたのだろう。立派なのは体格だけ。下品な男二人が出入口に立っている。
「鍵、かけ忘れてたんだなぁ俺。お嬢ちゃん、残念だったねぇ」
「何か生贄増えてるけど?」
「良いんじゃね? 多い分にはウワサの姫様も納得してくれるだろうよ」
ニタニタと汚い笑みを浮かべると、男の一人が内部を確認する。飛び入りの新人には興味はないようで、先ほど捕らえたシエラへ視線を移す。
「足りない頭で考えて、この馬車には嬢ちゃんしか乗らないように仕組んだのになぁ。まぁ、良いか」
男の一人がシエラの腕をまとめあげ、手首を掴み、片手で拘束する。空いた掌が汚らしく服の上を這った。身体のラインを確かめながら、男は息荒く彼女に迫る。
シエラは恐怖のあまり抵抗できずにいた。指先が震え、全身に力が入らない。悪夢のような展開に、目をつぶりやり過ごそうと構える。
「ちょっと。私を除け者にしないでくれる?」
セラは興奮する男に近づき、押さえつける腕を掴んだ。
「ああ? 何すんだおまえ」
「よく見て。その女より、私の方が容姿が上よ。せっかく楽しむのなら、美人の顔を歪ませた方が興奮するってものじゃない?」
ちっ、と雇われ者の舌打ちが、やけに大きく響く。後ろで控えていた屈強な男が、獲物を狩る熊のごとく、セラの首を鷲掴んだ。
「おうよ。じゃあ早速、そうさせてもらうぜ」
白い首筋に太い指が食い込む。
「おい、お前。やりすぎんじゃねぇぞ」
「分かってるよ」
ギリギリと万力を締めつけるように。男のくすんだ爪が食い込み、血が滲みだす。セラの唇から漏れる空気はだんだんと細くなり、全身がだらりと弛緩する。
「苦しいだろ。止めて欲しいだろ。命乞いしてみたらどうだ?」
「お前馬鹿だろ。そんなに締めてちゃ、命乞いできないって」
ゲラゲラと下世話な笑い声が重なり合う。
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