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「馬鹿野郎! 生贄は殺すなと領主から言われてるんだぞ! どうすんだよ!」
「お、俺は悪くない! こいつが生意気だからいけないんだ!」
「……おい、何かあったのか?」
男の仲間が何人か集まって来た。紋章の騎士も数人控えている。
二人はシエラを解放すると、素早く扉を締め、鍵をかけた。
生贄が暴れたので、取り押さえた。
舌足らずな言い訳が通ったのは、出発時刻が来たからに違いない。足音が離れて間もなく、馬車は一列で動き出した。
「……あー、もう。折るなら綺麗に折ってくれれば良いのに」
「ひぇっ!」
馬車が出発し数分後。セラは何事もなかったかのように起き上がると、首をコキ、コキと鳴らした。
隅でうずくまっていたシエラは素っ頓狂な声を上げると、琥珀色を揺らす少女をじっと見つめる。
「……え? どういうこと? 生きてるの?」
「おかげさまで」
「……何で」
「不死だから」
セラは唾液で湿った服の襟に怪訝そうな顔をすると、レオに近づいた。外套を掴み、汚れを擦り落とし始める。
「ちょっと! 雑巾じゃないんだから!」
「これくらい良いじゃない。助けてくれなかった罰よ」
「いや、だって、動けなかったんですよ」
シエラは天井へ視線を上げる。垂直に伸びるお面のウサミミ。天井に穴を開け、がっちりと嵌っている。
「ウサちゃんを取れば良いでしょう」
「できません。シエラちゃん、卒倒しますよ」
「どうかしら。意外と肝が据わっているかもよ」
道なき道を行く馬車は揺れる。ガタガタと、車輪の悲鳴が夜の森にこだました。
「シエラ」
「は、はい」
突然呼ばれ、シエラの肩に力が入る。
「怪我はなかった?」
「え、あ……、は、はぁ。何とか」
怪物を眺める眼差しに、対するセラの瞳は暖かかった。
「そう、良かった」
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