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「姫と竜はいた?」
川に入る数名を眼下に、セラは問う。
「姫は見てないですけど、竜はいます。姫さ……セラ様のこと、知ってる感じでしたよ」
「様づけは止めて。前から言ってるでしょう」
「ええっ。勘弁してくださいよー」
レオに導かれ、セラは野原を歩く。
数百メートル進むと傾斜は徐々になくなり、平地に変わる。同時に、遠巻きだが住居が現れた。木造家屋が六件ほど。洗濯物だろうか。長い竿に大量の洗濯物が泳いでいる。畑も見えた。ぽつぽつと、数名の少女が土仕事に精を出す。
そんな日常風景を圧迫する質量。梢色の鱗を光らせる巨大な竜が、暮らしを見守るかのようにうずくまっている。
竜は来客に動じない。血管の目立つ瞳を回し、二人をじっくりと観察する。
太陽を背に鎮座する巨体を見上げ、セラは眩しそうに目を細めた。
「久しいな、不死の姫君セラティール」
「その肩書きは止めて。万年竜ジェマ」
「はっは。不死とはいえ、元気で何より」
「それで、生贄運びの竜ってのはあなたなの?」
「いかにも」
「じゃあ姫は?」
問いかけに答えず、ジェマは首を持ち上げた。ゆったりと時間をかけて、畑に向かい大口を開く。
「お姫様は誰かのう?」
間抜けな呼びかけに、年端もいかない少女がわっ、と集まってきた。
最初に到着した少女が「お姫様一号!」と叫んだのを皮切りに「私が二号!」「やだぁ、一番が良かった!」「ジャンケンで決め直そうよ!」などど主張は激化。
ジェマは平等に姫になれるよう、仲裁を図っている。
「私はおままごとじゃなくて、不死の姫君に用があるんだけど」
「みな不死だぞ」
「何ですって?」
「冗談だ。現実的に考えてもありえんだろうが」
「……悪い冗談だわ」
長いため息を吐くセラ。レオはおもしろそうに様子を伺がっている。
「余興はさておき。詰まるところ、口減らしなんじゃよ」
少女の群れを相手にしつつ、彼はゆっくりと話し出した。
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