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2世界王の姫君
昼時の大通りは人が溢れかえる。旅人、兵士、商人、町娘。おびただしい数の靴が石畳を叩く。
みな、どこへ行くのだろう。雑貨店を出る人、食堂へ入る冒険者、路上の花売りの手を引く不届き者。
活気のある華やかな様相に、セラは俯いた。
「食べないんですか?」
とある飲食店の奥の隅、二人がけのテーブル席。窓の向こうを気にする彼女に声がかかる。
陽光に煌めく腰まで伸びる黒髪。琥珀色の瞳。人形のように整った顔立ち。清潔感のあるシャツにベストを羽織り、ミニスカートからは華奢な足がするりと伸びている。肌が異様に白く透けて見えるのは、全身を黒でコーディネートしているからだろうか。
セラは細い指先を動かし、テーブルの上の皿を示した。
「これは何?」
「何って、昼飯ですよ。腹が減っては旅はできないじゃないですか」
そう告げると、少女と対面する大男は料理を口に運ぶ。
目深にフードを被り、全身をすっぽりと外套で覆い尽くした男性。身長は二メートルはあるだろうか。食事中にもかかわらず、手元は厚手の革手袋に包まれている。
席の近くを歩く人はみな、大食らいのフード男と、薄幸そうな美少女に視線を投げ、通り過ぎていく。
怪訝そうな周囲を気にせず、男は食事を続ける。
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