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羊肉のステーキ。塩コショウのみのシンプルな味付けに、添えられた香草がよく合う。焼きたてのパンはおかわり自由。山羊のチーズと共に頬張れば、口内は幸せで満たされる。
「はー、美味しー。食べないともったいないですよ、姫様」
「その呼び方は止めなさいって言ってるでしょう」
「ああ、すいません。で、結局食べないんですか? 」
「いらないわ」
「自分で頼んだのに?」
その返答に、セラは眉間に深く皺を寄せた。
険しい顔つきで肉と睨み合いを続けていたが、ため息をひとつ。ステーキの端をナイフで小さく切ると、渋々と口に運ぶ。
「どうですか?」
「美味しいわ。とても」
「でしょ?」
「でも、やっぱりダメ。いらない」
銀食器を丁寧に並べ直すと、セラは椅子に深く座り直す。
「……私に食べられるなんて、可哀想だわ」
男は少女にフォークを向ける。
「なら、何で頼んだんですか」
「……あなたが嬉々として注文するから、劇薬でも入っているのかと思ったのよ」
「真昼間から毒入り料理なんて、店側にも俺にも失礼じゃないですか」
「あなたは純粋にステーキを食べたかっただけなのよね。ごめんなさい、レオ」
レオと呼ばれた男は仕方がないな、と大袈裟に両手をあげた。そして彼女の皿を懐に寄せ、再び料理を味わい始める。
セラは相手が食べ終わるまで、静かにその様子を見ていた。
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