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騒動は、レオがデザートのたっぷり生クリームプリンを半分食べ終えた頃に起こった。
「嫌だよ! 何で私なの!」
「うるさいよ。他の人の迷惑になるだろう」
親子喧嘩。ふくよかな体格の母親と、お下げ髪がかわいらしい少女が揉めている。
店内の中央に位置するテーブルで始まった争いは、治まるどころか悪化するばかり。
仲裁に第三者が何人も入り、何事かと人垣ができる。セラとレオは席から離れず、遠巻きに様子を伺う。
何も自らトラブルに巻き込まれる必要はない。ほとぼりが冷めた頃、退店すれば良いだろう。
「私、毎日良い子にしてたじゃない! なのに姫君への生贄に選ばれるなんて、どうしてなの!」
「静かにしないかい! これは決まりごとなんだ! 理由なんてないんだよ!」
二人の会話に、周囲の反応が分かれた。首を傾げる他の土地から来た者。眉を下げる、街の住人。
「イケニエだなんて、物騒ですね、姫様」
瞬間、レオはしまった、と口を噤み、言い直す。
「じゃなくて、って……あれ?」
目の前によく知る旅の連れはいない。視線を泳がせると、騒動の群れに入るセラの姿がある。
「えええ、何やってるのあの人は。全く、もう」
立ち上がった。セラの後にそっと寄り添い、状況を確認する。
「生贄って、何のこと?」
騒ぎの後方でたむろする数人の女性。事情を知っているのか、ひそひそと囁き合うのをセラは見逃さなかった。
「あなた、旅の方?」
「そうよ。生贄とは何のこと?」
「何って、姫様の生贄よ。あなたも聞いたことがあるでしょう。世界王の姫君よ」
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