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「姫様は不死を維持するために、子どもの生贄が必要なの」
「贄を出さなければ、姫様の下僕である竜がこの街を襲う」
「だから年に一度、子どもを奉納しなければならない。仕方がないのよ」
街の女性達は矢継ぎ早に、声を落として言葉を紡ぐ。
「それはいつから始まったならわしなの?」
「随分前からよ。八十年前?」
「六十年じゃない?」
「やだ、百年くらいでしょ。領主様がおふれを出したのよ、確か」
そこまで話を聞いて、セラは視線を上げた。女性の群れの後に、甲冑が静かに佇んでいる。胸に勲章をつけた治安部隊。領主直属の騎士だ。騒ぎを聞きつけ、やって来たのだろう。
「何の話をしている。口を慎め」
鋭利な騎士の声に場の空気が凍りつく。
「世界王の話をみだりに口にすることは禁じらている。領主への冒涜と知れ」
街人だろう。数名が顔色を変え、足早に店内から去っていく。セラと会話をしていた女性陣も脱兎のごとく逃げたした。
腫れ物を触るような対応に気にすることなく、騎士は騒動の発端へと近づいていく。
「娘よ、今回の件は誇りに思え。そなたのおかげでこの街は救われるのだ。母よ、そなたは胸を張って送り出すが良い」
激励に、母親は深々と頭を下げた。
「騎士様、ありがとうございます」
「娘を讃え、この場は看過する。立ち去るが良い」
娘の頭を母親は無理矢理下げると、店員に硬貨を渡し、退店する。最後まで不満そうな少女の顔が印象的だった。
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