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「……さて。そちらの旅の方」
騎士はセラとレオに目を向け、何かを言おうとし、沈黙した。
レオは慌てて弁解する。
「あっ、僕は決して怪しい者ではないんです。このお面ですよね? これは以前立ち寄った遊牧民に伝わる面で、おかしな代物ではないんです」
身体をすっぽりと覆う外套に、フード。顔には鳥の頭を模した、巨大な嘴がついた珍妙な面。
事情を知らない者が見たら、不審者にしか思われないだろう。
セラはレオを黙らせると、姿勢を正し、恭しく礼をした。
「騎士様、彼は陽に素肌を晒すことができない体質なのです。また、この街の決まりを知らなかったとは言え、興味本位に個人の事情を探るような言動、申し訳ございません。どうか、お許しを」
「そうそう。僕、陽に当ると蕁麻疹ができて皮膚がどろんどろんになって溶けて消えてしまう儚い命なんです。どうかお許しを」
立ち去らず様子を見ていた取り巻きから「あの人、さっきお面を置いて窓際で食事をしていたよね?」と反論がぼそり。二人はその言葉を、聞かなかったことにする。
「やっぱり鳥のお面はまずかったですかねぇ」
「ウサちゃんにしておくべきだったわね」
「えー。ウサちゃん、耳長すぎて天井に当たりますもん。嫌ですよー」
「そこの二人。無駄口を慎み、通行許可書を見せなさい」
セラはレオの分も合せて許可証を騎士に提示した。旅人の命とも言える身分証明書。
穴が開くほど確認された後、セラの手元に返される。
「……正規の手続きで問題なしか。まぁ、何故通したのか審査官を問い詰めるとして。旅人よ、先ほどの話はこの領地特有の事柄だ。流れ者には流れ者の礼儀がある。分かるだろう?」
セラは改めて頭を下げる。
「存じております」
「ならば立ち去るが良い。今回は見逃すが、次はないと思え」
二人は飲食代を払うと、好奇の視線にさらされながら店を出た。
外は変わらず、明るく賑わいを見せる街並みが続いている。
「つまり関わるなってことじゃないですか。上から目線で何様だっての」
「慎みなさい、聞かれるわよ。胸の紋章を見たでしょう。睨まれると厄介だわ」
ふてくされるレオをたしなめ、セラは通りを歩き出す。
「……姫への生贄ね」
そして誰にも聞こえない声で、一人呟いた。
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