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3シエラと不死とウサミミ
深夜。街が寝静まる頃、音もなく光は泳ぎ出す。火の玉のようにゆっくりと。歩幅に合せてランタンの火が揺れる。
明かりを下げる大柄な男達に挟まれて、子ども達は列を組む。みな俯き、頬に影を落しながら行進する。
生贄の列だ。
乱れることなく歩みは続き、街外れの森の奥の奥へ。後戻りができぬ暗闇へ少年少女は招かれていく。
やがて辿り着いた深奥には、数台の四輪馬車が並ぶ。運ぶのは鉄格子がはめられた正方形の箱。辺りは物々しい雰囲気に包まれている。
檻の中で少女は膝を抱え、顔を伏せた。馬車はこれからさらに山の中腹に向かい、そこで乗り捨てられる。時が経てば竜が舞い降り、箱ごと巣に持ち去られ、生贄になるという。
ふと少女は顔を上げた。馬車の扉が開く音がしたのだ。新しい贄が来たのかと確認をする。
表れたのは夜から抜け出したような少女と、全身布で包まれた、珍妙な男だった。
「あら、奇遇ね。食事中に騒いでいた女の子じゃない」
落ちる黒髪を避けながら、セラは笑う。
後から窮屈そうに長身の男が続く。月光に照らされた兎の面が何とも不気味だ。異様に長い耳が天井に当たり、間抜けな音を辺りに撒き散らす。
少女は戸惑いを隠せないまま、乗り込んで来た者に質問をする。
「……ええと、あなたも生贄なの?」
「違うわ。好奇心旺盛な一般人よ。噂の姫君に会いに来たのよ」
「ウソばっかり。生贄を止めるためにわざわざ後をつけてきたくせにー」
「言わないで。ややこしくなるでしょ」
「しまった。すいません」
少女はぱちぱちと目を瞬かせる。
「……生贄に、ならなくて良いの?」
「ほら、ややこしくなった」
真っ黒な少女はセラ。ウサミミ男はレオと名乗る。贄の少女はシエラだと自己紹介をした。
「もし本当に姫が不死のために贄を募っていて、竜がそれに加担しているなら、止める責任が私にはある。それだけなのよ」
「まぁ、生贄伝承が利用されてる可能性はありますけどね。領主が子どもを集めて、人身売買、とかね」
「それがね、街の噂話を聞いていると、本当に竜がいるようなのよ」
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