プロローグ

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僕には記憶が無かった。 まるで主人公みたいでかっこよく聞こえるだろうが、全くそんなことはない。いわゆる記憶喪失というやつだ。 世界がどうなったのかということなどは分かるのだが、自分のことに関しては全くわからない。 自分の名前も、何故ここにいるのかもわからない。 唯一手掛かりとなるのは、ずっと鳴り響くこの「音」に、僕自身なにか思うところがあるということだ。 警報のように鳴らされ続けているこの音を聞くと、急かされている気持ちになる。 今すぐにこの音を止めなければ、ひょっとして危険な事態になるのでは、と胸騒ぎがしているのだ。 なんの根拠もない推測とも、憶測とも言えないただの勘でしかないのだけれど。 この「音」で自分についてなにか分かるのではないか、と思う。 何とも不思議だが、いてもたってもいられなくなる。僕は重い足を上げ、その一歩を踏み出した。 どこを歩いても、ロボットばかりだ。 ようやく人間をみつけても、それは人間というより、もはやゾンビと言っていい。 その目に生気はなく、足取りもおぼつかない。 髪はボサボサで、服もボロボロ。目を逸らしたくなる見た目だ。 まあ、僕みたいに明確な意思を持っている、人間だっていなくなった訳じゃないんだろうけど。 対して、溢れかえるロボットは、紅く爛々と光る目に、新品の部品。移動にも明確な目的を感じる。 人間は殆ど居ないというのに、何故、あんなにも、綺麗な状態なのだろうか? 何処かにまだ修理を行っている、人間でもいるのか。 そうこう考えている間も、謎の「音」は鳴り続けている。 未だどこから聞こえているのか、音の源はわからない。 気になることは多いが、何の手掛かりもないため、どこに行けばいいかもわからない。 道にあるゴミ箱を開けてみたり、ビルの中を覗いたりしてみたけれど、その後も結局、謎はひとつも解決しなかった。 会うのは毎度ロボットだったし、そのロボットも言葉を話はしなかった。 人間も、うめき声のようなものを上げるだけで、会話にはならない。 ようやく言葉を話すモノと出会ったのは、歩き始めてから、半日程経過し、疲れ果てた頃だった。
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