気がつけば100P目突入だったのねw

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 空を見上げると曇っていた夜空から、俺たちを包み隠すように雨が一気に降り出す。  無言でジャケットを脱ぎ、冷たい雨から守るべく千秋の頭に被せた。無造作に腕を引く瞬間に、両手の親指を使ってそっと涙を拭ってあげる。  こんな俺のために流さなくていい涙を拭うくらい、してあげてもいいよな――。 「返さなくていいから。じゃあ……」 「穂高、さん?」  涙声を悟られないように吐き捨てる感じで言い放ち、踵を返して足早に歩く。 (――多分、大丈夫。雨が俺の涙を消してくれるハズだから。それに千秋は徹底的に、俺のことを嫌ってくれただろう) 「穂高さんっ!!」  土砂降りの雨の音に負けないくらいの大きな声が、俺を呼び止めた。顔だけで振り返ると、千秋が満面の笑みで微笑んでいる姿が何故かそこにあった。その顔に、胸が痛いくらいに絞られてしまう。 「穂高さんはウソだったかもしれないけれど、俺は本当に貴方が好きだったから! こんな風に真剣に、誰かを好きになる気持ちを教えてくれてありがとう」 「千秋……」 「出逢ってくれてありがとう穂高さん。幸せになってください」  どうして君はそんなに優しいんだ。酷いことを言ってキズつけた俺なのに。幸せになってくださいなんて言葉を、どうしてかけられるんだ? 「……幸せになってほしいから、だからそんな風に、――泣かないで……」 「っ――!?」  千秋の投げかけた言葉に右手で顔を覆い隠し、逃げるように走った。 (――いつ気がついたんだろうか?)  降りしきる冷たい雨が、俺の思考をどんどん奪っていく。  最低な別れをしたハズなのに……。未練を断ち切るハズだったのに。あんな言葉をかけられたら、いつまで経っても忘れられないじゃないか。 「千秋……、どうして」  こうして俺の心の中に、残り火が灯された。どんなことをしても消えることのない残り火が――。
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