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声を荒げる僕の顔をじっと見てから、消え入りそうな笑みを浮かべて、力なく首を横に振った。
「いいんですよ、安田課長は知る権利がある。俺の恋人だったんだから」
笹木はふっと視線を逸らし、安田課長のことを見る。
「抵抗する俺を尻目にワイシャツを引き裂き、あられもない姿にして、胸とかアソコとか感じる部分を念入りに弄られて……」
「ほぉ、イヤがるお前を無理矢理に」
告げられている卑猥な内容を耳にしても、ポーカーフェイスを崩さず、冷静に対処している安田課長の姿に呆然とするしかない。まるで、業務内容を聞いているときのようだ。
「口ではイヤがってました。でも嬉しかった……。香坂先輩が俺の感じる姿を見て悦んでいるのが。もっと悦んでほしくて、自ら腰を振ったんです」
言い切ってしまった笹木にうわぁと思い、顔を歪ませながら額に手を当てた。あまりにも雄弁に語るせいで、口を挟む気にもなれない。
「俺は、香坂先輩に憧れていました。ずっと好きだった……」
「なのに、私と付き合ったのか?」
「そうです。おふたりはどこか、似ているところがあったから」
僕と安田課長の、どこが似ているというんだ? 年齢だって性格だって、まったく違うだろうよ。
「おいおい、そんなイヤそうな顔をしてくれるな。お前と似ていると言われて、私は光栄なのに」
「別にそのことで、イヤそうにしているワケじゃないです。僕としては」
「波風を立てずに、穏便に俺たちを別れさせたかったんですよね?」
言葉をさらうように、笹木が口を出してきた。
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