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獣医と思われる妙齢の女性がいたんだ。背中まで伸ばした髪を、一つに束ねているのはいい。だがその髪色が、こんな感じの真っ青だったのである。
『2.5次元までなら許せるけど、これはちょっと! 魔女としか言えない』
心の中にいるもう一人の自分が叫んでも、その衝撃が伝わるわけがなく、帰りたいけれど引き返せないもどかしさを抱えながら、静々と中に入った。
「予約していた者ですが――」
「あ、ワクチンの予約をした方ね。ワンちゃんをここに出してください」
助手と思しき妙齢の女性に告げられたので腰の高さにある診察台にキャリーケースを置き、チャック式になっている扉を手早く開けた。
自分が知っている動物病院との違いに、緊張しまくった尚史の雰囲気を感じ取ったのか、小春はケースの奥のほうで体を縮こませていた。
これが家ならキャリーケースをひっくり返して出すところだが、そんな手荒な真似をして魔女に叱られたらおっかないので、わしっと喉首を掴み、強引な形でその場に引きずり出した。
本当は前足を掴もうとしたの。でもするりと逃げられてしまったので、可哀そうだけど仕方なく首を掴んじゃったというわけ。
(裕次郎なら出した瞬間におしっこチビっていたけど、コイツはどうするのかなぁ)
なぁんて考えながら、助手のおばちゃんに小春を手渡した。
「ちょっといい? 名前は?」
これから何をされるんだろうと小春を見つめていたところに魔女から質問され、小春の名前を告げた。
「それで、患畜の名前は?」
「ヒッ! すんませんっ、さっきのが患畜の名前ですぅ」
心の中でスライディング土下座をした自分。結構恥ずかしかった。
その後、自分の名前を告げて魔女にペコペコ頭を下げてから、診察台に視線を移した。
そこにはいつの間にか小さな体重計が置かれていて、小春を乗せようとしている瞬間だった。![image=509420598.jpg](https://img.estar.jp/public/user_upload/509420598.jpg?width=800&format=jpg)
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