三度目の混合予防接種

2/3

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
 本来なら3月の半ばに注射しに行けば、前回注射した期間のちょうど一か月おきになるのでいいのだけれど、魔女の姿を見せたいがために娘が月末春休みに入るまで伸ばした。  キャリーケースを見た途端に、お出かけを察した小春。ワンワン吠えて早く出かけたいをアピールした。  裕次郎のときに苦労していたのが嘘のようである。  ケージの入り口付近にキャリーケースを設置し、ロックされた扉を解放させてそのままケースの中に、娘が上手く誘導して中に入れてくれた。  誰かがいるってどんなことでもそうだけど、作業が本当に楽だと痛感する。  その後、徒歩7分の道のりを娘がケースを肩にかけて、並んで歩いたのだが――。彼女がなで肩だったせいで、ずるっと何度も肩にかけた紐が落ちて、キャリーケースが不安定な状態になった。  そのたびに中にいる小春はぐるぐると回転して、どこを向いていいかわからない状態に……。見ていた尚史はその様子を、高波警報が出ているのを知らないで出港してしまった漁船よのぅと心の中で表現しつつ、憐みの目で見守っていた。  病院についてからは前回同様にキャリーケースから小春をスムーズに引っ張り出し、さくっと体重計の上に乗せた。  なぜだかよく分からないのだが、見るからにものすごくテンションが上がっていて、ずーっと尻尾を振りまくりながら愛想をふりまいていた。 「このままそこで注射しちゃうわ」  変に暴れる前に先手を打とうと考えたのか、魔女がいそいそと準備を始めた。そのタイミングで娘が尚史の傍にそっと近寄る。  長男に『野武士』と呼ばれるくらい、いろいろ問題がある娘。飛んでるハエを素手で捕まえたりといろんな伝説がある。そんな『野武士』がなぜだか影に隠れるように近寄ったのが気持ち悪くて、注射を打たれる小春を気にしながら彼女のことも気にした。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加