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これね♪(* ̄  ̄)♂【不器用なふたり】より
叶わない恋に嫌気がさして、若い男の運転であの世に行く自分――そんな未来を想像しつつ宮本を見ると、前を見据えながら橋本に向かって左手の親指を立てていた。
(――これは、どういう意味なんだろうか?)
「雅輝……」
「このインプは陽さんのだ。陽さんが飛べと言えば飛ぶし、嫌だと言ったら飛ばない」
親指を立てていた左手が、シフトチェンジするのに使われる。橋本は黙ってその様子を見つめた。
「ただ言えることは飛んでも飛ばなくても、俺はここを失敗せずに走り抜く。陽さんの信頼にかけて!」
「だったら思う存分に好きなだけ飛びやがれ、デンジャラスなクソガキがっ!」
ここまで宮本に言わせて飛ばせないなら男じゃないと、瞬間的に橋本が悟った結果、高らかな笑い声と一緒にゴーサインを出してしまった。
ギアがトップに入れられ、ぐんと加速していく。するとインプを待っていたかのように、大きな窪みの上に積もった落ち葉がヘッドライトに煌々と照らされ、その姿を現した。
(わざわざ避けた落ち葉の山に突っ込んで行くとは、山頂を登るときは思いもしなかった――)
これから起こる危機的状況を迎えるにあたり、どんよりした気持ちで過去を振り返った橋本に、宮本が嬉しさを隠しきれないような弾んだ声で話しかける。
「行きますよ、ひゃっほー☆」
ズシャッという音と一緒に舞い上がったインプと落ち葉。だけどそれよりも、躰に感じる浮遊感のほうが気になった。ジェットコースターの頂上から落ちるときと同じ浮遊感に、下半身が気持ち悪くてしょうがない。
目の前をたくさんの落ち葉が舞っていくその隙間から、自分に向かって瞬いている星が、えらく綺麗に見えた。
橋本の記憶があったのはここまでで無事に着地できたのか、その後すぐにおとずれる急カーブを宮本が制することができたのかは、結局のところ分からないままだったのである。
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