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魔女と騎士と、災厄の竜
今日はなんという厄日だ!
騎士ルィン・イングロールは地面から身体を引き起こしながら思わず悪態をついた。出発前に太陽の女神、ア・ムールの祝福を受けたはずなのに、とんだ災厄に見舞われている。
紺碧の空を巨大な竜が舞う。
仰ぎ見る空は、淡いアメジスト色。
――紫黒竜ドラギュケイヴに遭遇するとは……!
蝙蝠の黒い羽に、火蜥蜴のような体。それは全長15メルに達する、巨体な有翼のドラゴンだ。
ゴゥ……! と羽を動かして陽光を遮り、地上に影を落とす。
ガリナヴァル王国内で確認されている災厄竜族(ディザースドラゴニア)の一体である、『紫黒竜』は、悠然と空で弧を描きながら二体の獲物を狙っている。
爬虫類のように冷たい黄金色の眼は、地上で哀れに這いずり回る二人の弱った獲物に注がれていた。
「あぁ、騎士様よ! ご覧なさいな、あれが私達の死よ! アハハ……!?」
手枷を嵌められた魔女が上空を仰ぎ見ながら、狂気の滲む笑みを浮かべて叫ぶ。
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