魔女と騎士と、災厄の竜

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 両手を固定する手枷からは、ジャラジャラと音を立てる鉄の鎖が伸びている。今は、馬車に固定されていた金具ごと引きちぎれて、重々しく地面を引きずっている。 「黙れ……! 呪われた忌まわしき魔女め! 魔術で災いを呼び込んだな!?」 「お前さんが言うその『呪われた忌まわしき魔女』と、こうして一緒に死ぬ気分はどうだい?」 「くっ! とりあえずその口を閉じていろ!」  騎士ルィン・イングロールは、険しい目つきで空を見て嗤う魔女を睨みつける。  どうやらルィンの脚は馬車から投げ出された衝撃で折れてしまったらしい。力が入らず立ち上がろうにも立ち上がれない。激痛に耐えながらなんとか上半身だけを起こし、腰に下げていた予備のショートソードを構える。  整えていた金髪は乱れ、彫刻のように美しい顔立ちの青年騎士の顔は、泥と血で汚れている。  ――こんな剣ではドラゴンのウロコ一枚傷つけられないが……せめて一撃を!  焦りと恐怖が心臓をじわりと締め付ける。  視線を転じると近くには横転した馬車が燻り煙をあげていた。騎士ルィン・イングロールの仲間二人は、ドラゴンのブレス――地獄の火炎の直撃を受け、全身が黒焦げになり既に息絶えている。陽気だったヘルリア、一本気で真面目な騎士ダーリヒル……。 「良い奴らだった……。それもこれもお前のせいだ! 魔女ケレブリア」     
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