夢見るディフェクティブ

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 薄く空に伸びていく灰褐色の煙は、芦屋昴の瞳に映る景色から色という色を奪っていった。 それは別に僕が特別だからということではなく、この土地に冬が訪れたからである。 木々はその身を剥き出し、寒空を彩っていた朱色や黄色の葉も枯れ果てて大地に霧散する。 色素を失った世界で、音をあげ吹き抜ける風が鋭く肌を突く。 そろそろマフラーが恋しくなってくる季節だ。  この冬を越えれば高校を卒業することになる。 なんとはなしに惰性で過してきたここ何年かを振り返ると、この学舎での思い出が極端に少ないことに気付いてしまう。 自宅から徒歩十五分の距離をゆったりと歩いて登校し、うたた寝を繰り返して授業を終え、下校後はバイト。 そのバイトも何か欲しいものがあった、遊ぶ金が欲しかったりしたわけではなく、ただ暇を埋める為だけに続けていた。 下校中、グラウンドから聞こえる号令や管楽器をチューニングする音を羨ましいと思ったこともあったけれど、そこに自分の居場所はないことを僕は知っている。  やりたいことも生きがいも、欲しいものも何もないまま生きてきた。 いや、欲を言うと彼女くらいは欲しかったかもしれない。 他人とまともにコミュニケーションのとれない自分が望むようなことではない気がするけれど。  とにかく、最近はそんな風に自分のことを繰り返し振り返ってばかりいた。 振り返るだけでは何も変わらないということを理解している筈なのに、どうして僕は今更こんなことばかり振り返っているんだろう。
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