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当時この国の貴族たち、ことに壮麗な宮殿を構えるその首都に集う貴族たちは、数百年来の恐るべき農奴制の支えによって磨き上げられた、優雅と繊細を極めた公の生活にひたすらいそしんでいた。彼らのその狭い社会においては、地位を巡る争いや恋の駆け引きなどは勿論のこと、大小さまざまな悪徳の実行とそれらの隠ぺいに至るまで、ことごとく馬鹿げた優雅さの下で行われていたものだ。 しかし彼らはその忙しい、まるで油断ならぬ生活の一方で、ふと一人になる瞬間があれば、その無為と無目的の檻に閉じ込められたようなわが人生のために、ひそかに苦痛の声を漏らしていた。彼の音楽はそんな哀れな貴族連中の心に、ほんのいっときにせよ、思いがけない新鮮な強い風を送り込み、のびのびとした寛ぎを与える力を持っていたのである。そして街中にその旋律は絶えることがなかった。 そのような力を持つ作品を生む作曲家自身の人柄もまた、一見すれば軽やかで当たりがよく、いかにも善良だったが、実は、その根はかなり大胆不敵にできていた。ひそかに高慢でもあり、しかもその高慢さは、ありふれた貴族たちの神経過敏と小賢しさからくる高慢さとは、まったく種類を異にしていた。彼の本音の世界を覗いてみれば、他人のことなど人ともなんとも思っていないことがしばしばであり、社交における優雅で婉曲で欺瞞的な会話など、笑うべきでくの棒の茶番劇に過ぎなかったのである。     
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