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変化の兆し
皆と別れて、家に入る直前、後ろから声を掛けられた。
「今帰り?」
明だ。
あのとき声を掛けられた子とは、一緒に帰らなかったのだろうか。
隣に住む明は同じ歳の、俗に言う幼なじみ。
今までずっと眼鏡だったくせに、最近コンタクトに変えて、なんだか女子にちやほやされている。
美佳は、それがなぜだか苛立たしい。
「家の前で聞く?」
「そりゃそうか」
そう言って明は少し笑う。その笑顔が可愛いと由美も言っていたけど、ちょっとイメチェンしただけじゃないか。そんな小さな変化で騒ぐなんてどうかしている。
「俺さ、前のスマホぶっ壊れちゃってデータ消えちゃったんだけど、お前のLINE、知ってたっけ?」
「いや、元から教えてないし」
聞かれてもいないし、と胸の中で呟く。
「じゃあちょっと待って」
明は、鞄からノートとペンを取り出すと、何か書き込んでビリッと破いた。
「これ、俺の」
ノートの切れ端に書かれたアルファベットの文字。縦長で、細くて、右上がり。
昔と同じ、明の字。
「うわ、下手くそ」
「うるせー。じゃあ後で登録しとけよ」
そう言って明は家に入っていった。
渡された切れ端をしばらく見つめたあと、そっとポケットにしまった。
何だかそのポケットがほんのり温かく感じたのは、きっと気のせいだ。
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