変化の兆し

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 家に入ると、母はまだ仕事から帰ってきていなかった。  ソファに腰を下ろし、テレビを点ける。ニュースでは「いよいよ明日、年号が変わる!」みたいな特集を放送していた。  買ってきた新しい方のお菓子を開け、口に入れる。口溶けのいいチョコレートとさくさくのビスケット。確かに美味しい。  パッケージをみるとカカオ七〇パーセント!とか国産小麦で香ばしく焼き上げたプレッツェル!とか色々書いてある。高級感のある黒のパッケージに比べ、昔のパッケージは、何というか、いかにも子供向けでダサく思えた。  一つ二つと食べ進めていると、ガチャリとドアが開き、買い物袋を下げた母が入ってきた。 「お母さん、お帰りなさい」 「またご飯の前にお菓子なんか食べて。太るわよ」  買ってきたものを手早く冷蔵庫にしまいながら笑って言う。 「別にいいもん。それより、今日の晩ご飯は? カレー?」 「カレーはこの前食べたでしょ。今日はお魚」 「えー」  口を尖らせてふて腐れてみせると、母はちょっと笑って、冷たいお茶を注いで手渡してくれた。 「あら、これ懐かしいわね」  そう言って、古い方を手に取った。 「ほら、美佳このお菓子、小さいときによく食べてたじゃない」 「うん、それで、こっちが新しくなったやつ」 「へぇ、随分高級そうになったのねぇ」  そう言いながら一つ摘まんで口に入れる。 「あら、美味しい」 「ね、前のも食べてみようよ。味比べ」  母の持っている古い方の袋を開けて、食べてみた。母もそれに続く。 「うーん……」  正直、微妙だった。まずいわけじゃないけれど『プレミアム』とは比べものにならない。 「そうそう、久し振りに食べたけど、こんな味だったわ。美佳ったら買い物に行くと、必ずこのお菓子持ってくるんだから。お母さんもよく食べさせられたのよ」 「でも、あんまり美味しくなくない?」 「子供の頃だからね、今とは違うでしょ」
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