いまだから話すけど

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いまだから話すけど

 年の瀬に里帰りをした森野さんは、誘われて地元の仲間の飲み会へ顔を出した。  同級生だけでなく後輩や先輩の親しかった顔ぶれも集まり、賑やかに鍋など囲みながら、懐かしい話に花を咲かせた。森野さんはそこで、皆で出掛けた夏休みのキャンプの思い出を話題にした。  それは、地域の子ども会の恒例行事で、小学生だった森野さんが近県のキャンプ場に泊まりがけで出かけた際のこと。  参加した子どもたちは、三、四人ずつのグループになって、テントで夜を過ごしたのだが、 「あのとき、クマが出て大騒ぎになったよな」  そう森野さんが切り出すと、 「おぉ、俺は爆睡していて全く気づかなかったけどな」  同じテントに寝泊まりしていた同級生のシンジ君も、懐かしそうに会話に加わった。  キャンプの夜、眠っていた森野さんは何かの物音で目を覚まし、辺りを見回してギョっとした。  テントの向こうに大きな黒い影があり、ユサユサとテントを揺らしていたからだ。  キャンプ場に着いたときのオリエンテーションで、 「この辺りは、クマが出ることもあるから、充分注意すること」  と、指導者から念を押されたことを森野さんは思い出した。 (クマだ! 怖い。食べられる!)  凍り付いた森野さんは、ぎゅっと目をつぶって、一秒でも早く、クマがこの場から立ち去ってくれることを祈った。息を殺して、寝袋の中に縮こまっているうちに、日中の遊びの疲れからか森野さんはいつの間にか、再び眠りに落ちていた。  そのまま、クマも諦めてどこかに行ってしまったのだろうか。気がつけば何ごともなく、森野さんは無事に朝を迎えた。 「昨日の夜、俺たちのテントにクマが出たんだよ」  森野さんの報告に、子どもたちはどよめき、大人たちは青ざめた。
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