朝はコーヒーとともに

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「そっか、恥ずかしがり屋なんだ」 「うん。ディサナスが隠れちゃったらわたしが出てくるの。わたし、お話しするの好きだから」 うんうん、と相槌を打ってアーダの話を聞きながら、一方で対処方法を頭に巡らせる。ーー目の前にいるのは、どう考えてもディサナス。5歳だと言うアーダという女の子だと主張しても、外見が5歳の女の子に変わったわけではない。姿形はディサナスのままで。外見上の違いと言えば、その表情がディサナスよりも豊かで目が輝いているというだけ。仕草や話し方は子どものようだが。 正直言って戸惑っていた。それらのことから真っ先に浮かんだ言葉は、「解離性同一性障害」。いわゆる多重人格のイメージで知られている病名だ。何かの原因で一人の人間の中に複数の人格が生まれ、かつそれぞれが何らかのタイミングで交代し、記憶障害や感情障害を及ぼし、生活を送るのが困難になる病気。 「アーダは……ディサナスの、どんなことを知っているの?」 そうだとした場合、ここで問題になるのはどれだけディサナスの情報、ひいては反乱軍の情報を聞き出せるかどうかだった。 「うーん。ディサナスのことはよく分からないの。ディサナスが出てきたら、わたしは隠れちゃうから。グスタフの話を聞いてると、すごく難しい話をしてるし」 また別の人物の名前が出てきた。一体何人の人格があるのか。……これはまた、頭を悩ませる問題だ。 「ディサナスと代われる?」 とにかく情報を引き出さなければならないが、カロリナは一言もこのことは言わなかった。今まで症状が現れなかったのか、それとも誰も気づかなかったのかわからないが、ひとまずこの物理的にも比喩的にも冷たい牢獄に閉じ込められていては、まともに話すことはできない。とは言え、すぐに牢獄から出す権限が僕にあるわけはなく、カロリナに相談しなければいけないが、上手くいくかどうか。 「……ううん、今は無理。緊張して隠れちゃったから」 むしろ牢から出るための詐病と考える方が論理的ではある。……頭が痛くなってきた。 「アーダ。ディサナスは出てこれなくても、そのグスタフとは代われるのかい?」 「うん。グスタフもハルトとお話したがってる。今、代わるね」 そう言うと、アーダの瞳がスッと色を失い、電灯のスイッチが切り替わるように別の光が宿った。野性味溢れるその目は挑発的に僕の目の奥を覗き込む。
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