朝はコーヒーとともに

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1 パチパチと暖炉の火がはぜる音が、いつものように暗闇の底から目を覚まさせてくれた。とは言っても、極夜のこの時期は早朝からすでに薄暗く、すっきりとした目覚めを迎えられるわけではない。 綿100%の上質な掛け布団から起き上がるだけで、体が縮こまるような寒さを感じる。急いで毛布を体に巻き付けてベッドから崩れ落ちるように暖炉の前に移動すると、トナカイの絵が編み込まれた絨毯の上に寝転んだ。数秒と経たないうちに体全体に確かなぬくもりが広がっていく。 スルノア王国の冬は、聞いていた以上に厳寒だった。いや、極寒だった。マリーやカロリナ、この地に住む人々には当たり前のことなのだろうが、雪と呼んでいいのかどうか迷うほどのもはやみぞれに近い雪が数センチ積もっただけで生活が狂ってしまうようなところから来た僕には異常とも思えるほどの寒さ、そして景色だった。 窓にはドライアイスを開けたばかりのような霜が張り付き、不純物を一切含んでいないような真白な雪が周りの壁を覆う。それは窓だけではなく、城ごと包み込んで白の造形物と化し、ちょうど絨毯のようだった緑の芝生は分厚い雪と氷に覆われていた。膝、腰の高さまで、下手したら小さなマリーはすっぽり埋まってしまうんじゃないかと思うほどの高さだ。窓からぼんやりと見える湖は完全に凍りつき、巨大なスケートリンクのようになっていた。実際、王宮へやってきた子どもたちが木製のソリやスケート靴で歓声を上げながら遊んでいる姿をよく見かける。 「そう言えば、カロリナが子どもたちのために鉄製のスケート靴を購入したと言っていたな」 大臣たちの渋い顔が浮かぶ。スケート靴に何のお金を充てたのかまではわからないが、きっと王女ならいろいろとお金を出させられるのだろう。シグルド王子とカロリナが戦争孤児を宮殿に住まわせたいと定例会で提案したときには、それは文字通り苦虫を噛み潰したような顔が並んでいた。一人を除いて反対意見が続出したが、シグルド王子のあの猛禽類を思わせる鋭い目つきで押し通すことができた。 結果として、元気に冬を楽しむ子どもたちの姿を見れるのは嬉しいことなんだが。 今日一日の予定を頭に浮かべると、思わずため息が漏れ出てしまった。 「まずはコーヒーでも飲もう」
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