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宮殿の中はやはり冷えていた。ぐるりと氷雪に覆われているのだから、しょうがないことだが。まだ早朝だからか、それとも空気が研ぎ澄まされているのか、自分の革靴が鳴らす足音がやけに大きく聞こえた。
考えてみれば、ディサナスがいる牢屋は、冬の間凍えるような寒さになっているのではないだろうか。どんな悪事を働いた人間が牢屋に閉じ込められているのか知らないが、ディサナスくらい別室に幽閉してもいいのでは? そう思ってしまうほど彼女には、そう、悪意というものが感じられなかった。
階を降りるごとにいよいよ寒さは増していく。突っ立っていれば身震いしてくるような寒さだ。
あの戦いの最中だってディサナスは確かに迷うことなく、カロリナや僕をその「冷たい炎」で殺そうとしたが、その青色の瞳には何の感情も見られなかった。機械のように下された命令を実行する。それは確かに怖いかもしれないが、ただ、それだけだった。
地下2階に到達すると、さすがに雰囲気はガラリと変わる。初めて訪れるそこは、明るくて華やかな宮殿のイメージとはかけ離れた、暗くて簡素な雰囲気を漂わせていた。
「ハルト殿、ご用件は?」
人1人くらいが通れる狭い廊下を覆う鉄格子の前に立つ兵士が声をかけてきた。寒いのか軍服の上に厚手のコートをがっつり着込んでいる。
「ディサナスさんと面会がしたいと思って来たんですが」
そう言うと、兵士は驚きの声を上げるとともに「ようやく来たんですね!」となぜか快活に話した。
「やっ、すみません。ここで何度か話をうかがっていて、毎回ハルト殿の名前が出されていたもので」
いぶかしむ僕の視線を感じ取ったのか、そう付け加えると、兵士は慣れた手つきで錠を外し、ディサナスのいる牢屋へと案内してくれた。
見張りの兵士が知っているくらいだから、相当僕の名前が出されたのに違いない。だけど、なんで僕なんだ? ディサナスと戦って勝利したとはいえ、辛うじて、なんとか勝ったようなものだし、そのあと会話らしい会話をしたわけでもない。
頭を捻りながら、ところどころ黄ばんだり、ヒビの入った無骨な感じのする廊下を進むと、小さく仕切られた牢屋の一つ一つに人が収容されていた。眠っているものや本を読んでいるもの、体のトレーニングをしているもの、 ニヤニヤとこっちを見ていくものなど様々な過ごし方をしているなか、一人の老人が話し掛けてきた。
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