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掘りごたつのようになっている座敷にあがり、ビールと数種類のつまみを注文する。
店内のメニューは年季の入った木の板に手書きで書かれ、壁にぶら下げられていた。
「いいお店でしょ」
「そうね」
「いかにも昭和って感じ」
「---!」
香川に悪気がないのなんて百も承知だが、気づくとつい突っかかってしまっていた。
「いかにも昭和って、どういう意味?」
「え?」
しまった。後悔するがもう遅い。
キョトンとしている香川。
まるで自分の事を言われた気がしたのだが、そんな訳がない。
「……ごめん、何でもない」
慌ててビールを一気飲みする。
「こーらー!遥先輩、途中で辞めるの禁止」
「……別に……ちょっと……ちょっとだけだけど!昭和って区切られるとなんだか古臭いって言われてるみたいで嫌だなっていうか……いや、お店は確かに昭和な趣だとは思うけど……」
上手く説明できず口ごもって下を向いてしまう。
「あ!先輩昭和生まれですね?」
自分の中で何かが解決したかのように香川は頷いた。
「先輩気にしすぎっすよ!別に先輩が古いとか誰も言ってないじゃないですか」
恥ずかしい……
何だろう、心の中を覗かれたようで恥ずかしい!
「香川にはわかんないよっ!」
思わず叫んでしまった。
「あと2日だったのに……。たった2日で平成生まれだったのにっ」
じんわり涙が滲んでくる。
「少し考えれば差なんてないことわかるのに、合コン行けば「昭和生まれなの?」「姐さんって呼んでいい?」って言われるのよ。それに、昔テスト受けたら生年月日のプルダウンに昭和63年までしかなくてお前は平成元年生まれにしとけなんて言われるし、市役所行けば、珍しいですね!って……知らないわよ……、わたしだって平成に生まれたかったわよ!」
こんなの八つ当たりだ。頭ではわかっていたが、止まらなくなっていた。
そんな私を見て香川は……
「ちょっ……何で笑っんのよ!」
「ははは、ごめんなさい。馬鹿にしてとかじゃないんです。ただ、可愛いなぁと思って」
「やっぱり馬鹿にしてるでしょ」
香川を思いっきり睨む。
「んー、俺が今日先輩誘った理由わかります?」
「う……」
そうだ、誘ってきたのは彼なのに、人の話も聞かず自分の事ばかり訴え感傷的になってしまっていた。
「ごめん……なさい」
すると香川は慌てて
「いやいや、そうじゃなくて!謝ってほしいんじゃなくて」
一呼吸整え
「俺の悩みは先輩と真反対……かな」
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