第1章

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 思考を巡らせると、 シートベルトを着用していなかったから(当時は着用を義務付けされていなかった)第一回目の衝突で、 私はフロントガラスを正面から突き破り、 車とは離れて互いに回転しつつ落下したのであろうと、 推測出来た。    大きく言えば、 種の保存本能だろう。 あれ程自己をこの世から消滅させる願望に身を委ねていたが,それが、 すっかり一転したのだ。 生に対する執着が、 入道雲のようにムクムクと身内より湧き上がり、 生き延びる事が全てに優先し、 多くの煩悩が頭をもたげてきた。 頂上に上がり、 病院で治療し、 一刻も早く職場に復帰しなければならない、 と思った。 人間とは、 現金なものだ。
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