第1章

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 中古だが宝塚近くのマンションで暮らし、 成績優秀な小学生二人いる家庭と、 皆が羨む仕事をこなしているにもかかわらず、 心底、 この世に嫌気がさしていたから、 私は、 真剣に自殺を考えていた。  自殺の場所に、 独身時代、 チューンナップ、 ドレスアップした純白国産スポーツカーの助手席にガールフレンドを乗せ、 カッコよくタイヤから白い煙を出すほどギヤーを落としたり、 アクセルを目一杯ふかし急カーブをかなりスピードで荒っぽい運転をしたりして、 何度もドライブした細かな道路までよく熟知している六甲山を選んだ。    自分で言うのも気が引けるが、 会社では、 四百名を超す同期で、 常に五番以内のエリートであった。 家庭には、 皆が羨望する美形の妻と、 二人の文字通り目に入れても痛くない兄妹がいる。 妻は論外だが、 幼い二人をこの世に残して、 いざ自殺を決行するとなると、 相当な勇気と覚悟(?)が要求され、 鬱やノイローゼでないまともな精神状態では、 とても出来ない芸当だろう。
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