007.砕かれた聖杯(1)

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 フラワー事業とは、わが社の主要事業の一つで、「会員制高級クラブ」の経営と、その店舗が入るビル内施設の管理・運営を行っている。フラワーのビル内には、VIP会員専用に賃貸している部屋やフロアがあり、そこはある意味、治外法権だ。施設の管理・運営を妨げるような面倒さえ起こさなければ、何を行っても構わない。例え、世間一般には犯罪と呼ばれる行為であろうとも。 「改築ですか。新築しないのは珍しいですね」  手元の企画書によると、開業予定地は、繁華街から一駅隣のオフィス街の外れだ。元々雑居ビルだった物件を改築するらしい。  これまでに開業しているフラワー事業の五店舗は、いずれも施工から建設までわが社の関連会社が手掛けていた。 「改築とは言っても全面改装するし、保安に関しては徹底させるから、心配無用よ」  ネイビーに細いシルバーのストライプが入ったクールなスーツ姿のキャサリンは、いつものアルカイックスマイルを向けてきた。 「ですが……この辺り一帯は松浪(まつなみ)組のシマでしょう。大丈夫なんですか」  広域指定暴力団の下部組織が古くから幅を利かせている地域への出店に、懸念が広がる。確か、直営の風俗店も少なくなかったはずだ。厄介事にならなければ良いのだが。 「相変わらず心配性やなぁ、譲治は」  ボスは想定内だと言わんばかりに、得意気に唇を歪めた。 「安心せぇ。そこはビジネスや、カタは付いとる」 「建物の名義は譲り受けたけど、土地の所有権は、当分松浪組(あちら)のままなのよ」  そこまで聞いて合点する。  資金洗浄(マネーロンダリング)――マネロンを目的とした取引だったのか。 「なるほど。失礼しました」  これもまた、わが社の主要事業の一つである。  マネロンは、不法なルートで稼いだ『汚れた金』を正当な取引で得た『綺麗な金』に替える犯罪行為だ。 反社会的組織や大手企業の求めに応じて、わが社は闇資金の洗浄を請け負っている。だからこそ、他社・他組織と競合しても、安心して商売できるという訳だ。
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