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「IR法案が通ってカジノが合法化されれば、ややこしくなるやろ。ウチの福祉事業にも影響するさかい、今からパイプ作らなアカンのや」
福祉事業は、わが社のマネロンにおいて重要な役割を担っている。福祉事業無くして安定したマネロンは行えない、と言っても過言ではない。
「そうでしたか。それで――仕事の話でしょうか」
新店舗の開業計画を伝えるためだけに、俺を引き留めた訳ではあるまい。
「ええ。その福祉事業の管理人が一人、消えたの」
タイトスカートから伸びた長い足を組み直して、キャサリンはデスクの上から紫色のファイルを取り上げる。
「管理人が?」
「年は若いが、腕のええヤツや。周りも行方を眩ます理由が分からへん言うとる」
ボスの声に含まれる感情の成分が変わる。良い傾向ではない。
「Y市の『ウィステリアⅡ』の管理人――彼よ」
ブロンドを掻き上げて立ち上がると、彼女はファイルから抜き出した数枚の写真を、俺の前に並べた。
一枚目は、証明写真を引き伸ばしたものだ。茶髪に色白、全体的に色素の薄い青年は、まだ幼い印象を受ける。二枚目以降は、仕事中を撮した隠しカメラの映像をプリントアウトしたものらしい。
制服を着た表情はやや大人びて柔らかく、唇は笑んだ形に固定されているものの、瞳には隙がない。常に客達の動きを視界の内に捕らえる様は、なるほど腕が立つ管理人に違いない。
「詳しい資料は、こっちのファイルにまとめてあるわ」
薄いファイルを寄越すと、彼女はアイスブルーの瞳を細めた。
「指名客も付いとる売れっ子や。すまんが、身辺を当たってぇな、譲治」
「分かりました」
写真と資料を受け取り、ソファーを立つ。彼らに一礼して、オフィスを後にした。
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