007.砕かれた聖杯(2)

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 総務部――13階にある俺の事務所に戻ると、妙な緊迫感が漂っていた。 「譲治さん、コーヒー飲みますか?」  事務所(ここ)では、すっかり茶坊主と化した裕太が、お決まりのように俺のデスクに駆け寄ってきた。  スノボで雪焼けした肌の色は落ち着きつつあるが、茶髪に焦げ茶色のスーツが相変わらず仔熊のイメージに重なる。 「ああ、頼む」  コーヒーサーバーは、ドアの近くに据え置かれている。自分で入れることに何ら不便はないのだが、コーヒーを運ぶやり取りを、俺とのコミュニケーションとして裕太が望んでいるらしいので、好きにさせている。  俺としても、不在中の事務所の様子が聞けるので、悪いことではない。  貰ってきたファイルを開きながら、見るともなしに部屋の中を見渡す――普段と同じ面々、特に変わりはない。なのに、全体にピリピリとした雰囲気が漂っている。 「はい、どうぞ」  コーヒーを受け取ろうとして、視線が止まる。 「どうしたんだ、これ?」  いつもは紙コップに入れられてくる液体が、ダークグレーのマグカップに満たされていた。 「エコでしょう? 使い捨ての紙コップだとゴミも一杯出るし、勿体ないじゃないですか」  何だ、その主婦のような発想は。 「……もしかして、人数分揃えたのか?」 「はい! 間違わないように色分けしてますから、安心ですよ」  で、俺のカラーはダークグレーなのか。ま、妥当だな。十中八九、俺はこの色のスーツを着用している。  ということは、裕太(コイツ)のマグは茶色に違いない。 「……ところでだな、何かあったのか?」  マグに口を付けてから、踵を返しかけた裕太を引き留める。 「え。――あぁ」  事務所全体を見遣った、俺の視線に気付いた彼は苦笑いを浮かべた。  その時――。 「おい! 時間じゃねぇか!」  総務部(ウチ)の中でも一際いかつい風貌の金岡が、立ち上がる。今日は奴にしては大人しめのスカイブルーのスーツ姿だ。 「いけねぇ、早くつけろよ!」 「もっと詰めて座れって」 「るせぇ! 始まるぞ、黙れ!」  俄に気色ばむと、男達の半数が、一斉にデスクを離れてテレビ前のソファーに陣取った。熱心な視聴人口が、心持ち増えたような気がする。
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