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◇
その日、ちえと母親の由理恵は
病院が遅くなったので、夕飯を外で済ませ帰宅の途についてた。
雲一つない夜空とは対象的に、由理恵のその表情はひどく曇っていた。
突きつけられた真実に困惑する自身、
残された短い時間とその過ごし方、
そしてちえにこの事をなんと伝えようかと、
様々な思考が入り混じって混乱していた。
するとちえはそんな由理恵を知ってか知らずか、
夜空を指差してはしゃぎだした。
「みてみて、お母さん!
おほしさまが降ってきたよ!」
それは、ちえが物心ついてから初めての雪だった。
由理恵は風花<かざはな>に少し驚いたものの、
ちえに何かを教えられる機会を逃したくなかった。
「ちえちゃん。これはね、雪っていうんだよ。」
「ゆ……き……?」
「そう、雪。お空から降ってくるちっちゃな氷よ。」
新しい知識を手に入れたちえは
子犬のようにはしゃぎだした。
「へぇー。雪か―。雪だ―!」
こうやってちえが喜ぶ姿を
あと何度見る事ができるのだろうか。
由理恵はそう思うと、これまで堰き止めていた感情が
一斉に溢れ出してしまった。
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