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ただここでは、年齢性別社会的地位、そんなものは一切関係がないのだ。
第一回、全日本アナグラム大会、決勝戦。
言葉遊びと侮ることなかれ。既存の文字を入れ替え新たな物語を生み出す。ここには壮大な夢が詰まっているのだ。
それに魅入られたアナグラマー達の夢が、今、ここにある。
時にくだらないと馬鹿にされ、時に道楽だと笑われながら一人活動していたあの頃。数人、十数人と出会い小さな発表会を開催したあの時期。協会を立ち上げ、何とか自分たちで大会を運営できるようになったあの時。
そうした日々を駆け抜けて、ついに、スポンサーがついた全国大会の開催が決まった瞬間の嬉しさと言ったら。地区予選、県大会、地方大会を勝ち上がってきた猛者二十四名。
さらに初戦と二回戦をくぐり抜けた先の、決勝戦。残った八人の一発勝負。
そう、正に今日は特別な日なのだ。
お題としてこれ以上の相応しさはないだろう。
次に元気のいい声とともに手まで挙げたのは、小学生の男の子。
『花と憂く日 別居だ』
小さな手で映し出された子どもには似合わない単語に、会場全体が騒めきに包まれる。それが静まるのをじっくり待ってから、彼はにこりと笑った。
「はあ、とついたため息が生けた花にかかる。ゆるりと揺れたそれに文句を言われた気がして、俺は苦笑いを零した。水なんか換えてやったことないけどさ、今日は仲良くしてくれよ、俺にだって憂う日はあるさ。なんたって、女房が出ていってしまったんだから」
小説のような解説に、先ほどより大きな騒めきが広がる。なかなかやるな。小学生とは思えない。
評価の基準は大きく三つ。
一つ、言葉の選択。どんな単語を見つけ出すか。今回であれば“今日”“特別”という既出の熟語は避けたい。何でもありを無くすため、歴史的有名人を除いて名前や苗字は論外。なかなか思いつかない単語は評価が高いが、難解過ぎると嫌われる。あの女子高生はおそらく高得点だろう。使いづらい“べ”と“だ”を上手く組み込み、かつ接続語の“は”しか原文が残っていない。
二つ、物語性。ただの単語の羅列では駄目だ。まずは一文として成り立つこと。そしていかにあっと言わせるような、感動するような、にやりとさせるようなストーリーが作られているか。小学生はここで大幅に稼げるはずだ。
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