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「お父さんの仕事の都合で、引っ越す事になったからね」
ーマジ?やったー
十一月も終わろうかというとある金曜日、学校から帰ってくるなりお母さんにそう言われた僕は、小さくガッツポーズした。
僕、葛西隆人の通う、都内の私立セント・バナード学園は、それはもう、上下関係が酷いところだ。
上下関係と言っても、三年生が偉いといった、そんな単純なものではない。
分かりやすく言えば、最近漫画や小説などで流行っているような、カーストスクールの様なもの。
ただ僕は、カーストスクールなるものの物語の設定は良く知らない。なので、想像の域は出ないけれど。
因みに、セント・バナード学園の場合、成績優秀組が学園の頂点に立っていた。
そしてそれは、学園側、つまり運営側の方針でもあった。
頂点に立つ者達以外は全員、奴隷の様な扱いで、特に一年生の僕なんかはもう、理不尽な扱いを散々受けてきた。
一年生の中でも、カースト制は生きている。
僕の成績は中の下くらいで、同級生からの仕打ちにも耐えられなかった。
「で、どこに?」
僕は確認せずにはいられなかった。
いくら引っ越すとはいえ、大田区から品川区に移動する程度では、転校とはならないからだ。
「ううんとね・・・」
お母さんは、テーブルに置いてある紙を手に取った。
どうやら、今朝方お父さんがメモ書きで置いて言ったらしい。
「福井県、岡丸市・・・えっと、これ、なんて読むのかしら」
福井県、それだけわかれば十分。
多分、色々とここより不便だろう。
何しろ今住んでいるところは、京急、東急、JRの駅が最寄りにあり、特に京急某駅は、歩いても三分の所にあるから、寧ろここと比較しようってのが間違いだ。
多少不便でも、今の学校から離れられるならなんでもいい。
「分かった。僕、ちょっと荷物の整理してくるね」
「あらあら、気が早いわね」
お母さんの呆れ顔を横目に、僕はうきうきと、自室へと向かった。
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