転校前

2/2
前へ
/38ページ
次へ
「お父さんの仕事の都合で、引っ越す事になったからね」 ーマジ?やったー  十一月も終わろうかというとある金曜日、学校から帰ってくるなりお母さんにそう言われた僕は、小さくガッツポーズした。  僕、葛西隆人(かさいりゅうと)の通う、都内の私立セント・バナード学園は、それはもう、上下関係が酷いところだ。  上下関係と言っても、三年生が偉いといった、そんな単純なものではない。  分かりやすく言えば、最近漫画や小説などで流行っているような、カーストスクールの様なもの。  ただ僕は、カーストスクールなるものの物語の設定は良く知らない。なので、想像の域は出ないけれど。  因みに、セント・バナード学園の場合、成績優秀組が学園の頂点に立っていた。  そしてそれは、学園側、つまり運営側の方針でもあった。  頂点に立つ者達以外は全員、奴隷の様な扱いで、特に一年生の僕なんかはもう、理不尽な扱いを散々受けてきた。  一年生の中でも、カースト制は生きている。  僕の成績は中の下くらいで、同級生からの仕打ちにも耐えられなかった。 「で、どこに?」  僕は確認せずにはいられなかった。  いくら引っ越すとはいえ、大田区から品川区に移動する程度では、転校とはならないからだ。 「ううんとね・・・」  お母さんは、テーブルに置いてある紙を手に取った。  どうやら、今朝方お父さんがメモ書きで置いて言ったらしい。 「福井県、岡丸市・・・えっと、これ、なんて読むのかしら」  福井県、それだけわかれば十分。  多分、色々とここより不便だろう。  何しろ今住んでいるところは、京急、東急、JRの駅が最寄りにあり、特に京急某駅は、歩いても三分の所にあるから、寧ろここと比較しようってのが間違いだ。  多少不便でも、今の学校から離れられるならなんでもいい。 「分かった。僕、ちょっと荷物の整理してくるね」 「あらあら、気が早いわね」  お母さんの呆れ顔を横目に、僕はうきうきと、自室へと向かった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加