惜春

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 デスクの上に重ねてあった書類の束をめくりながら、無意識に声に出してしまっていた。自分自身に向けたその言葉に桜井が反応した。  「課長、何か問題ございましたか」  「……え…、あ、いや問題はないよ」  一瞬何に桜井が反応したのかわからず戸惑って答えが遅れた。いつもと違うその様子を桜井が見逃すはずはなかった。  「課長、どうかなさいましたか?体調がすぐれないのではありませんか?」  「なんでもない、自分の仕事に集中しろ」  こんな些細な事も気にかけて心配する様子を見せるのは、単なる表面だけのことかとますます腹が立ってきた。移動の内示が出たのに何も言ってはこない。  「はい……あの課長、やはりいつもとは様子が少し違うような…差し出がましいようですが、もしよろしければもう少し私に手伝わせてください」  手伝わせて?もうすぐ移動するのに何をいっているんだと腹がたって仕方なかった。  「……どうせすぐにいなくなるお前に任せる仕事なんてない!」  感情的にならないようにと思っていたのに、随分と子供じみた言葉が出た。  「……」  少し驚いて傷ついた顔をした桜井を見ながら、自分がパワハラまがいの言葉を投げつけたことに気が付いた。  「いや、すまない。違う……」     
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