最終章 夜をこめて

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 「違います、羽山さんが今にも泣きそうなのです」  泣きそうなのはお前だろうと、思った時に自分の頬を伝った雫がはたりと桜井の腹の上に落ちた。その瞬間に桜井はネクタイで纒られた両手をそのまま持ち上げた。  「お願いです、抱きしめさせてください」  「駄目だ」  「羽山さん、ごめんなさい。連絡も出来なくて本当にすみませんでした。父に仕事でも認めてもらわなくてはここへ来ることはかなわなかったのです。羽山さんへの想いも本物だと皆に認めてもらう必要があったのです。時間がかかったことは謝ります」  桜井のその台詞に何故自分がこんなにも不安定だったのか、その答えをようやくもらえたと知った。桜井が渡米してきたのは、自分との未来を選んだ結果だとようやく分かった。単に御園にたき付けられて会いに来たわけではないのだ。  「桜井、苦しい……」  「解いてもいいですか?」  答えを待たずに、緩く留めていたネクタイから手をするりと引き抜いた。  「ちゃんと抱きしめさせてください」  そう言うと桜井が両手を広げた。          
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