最終章 夜をこめて

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 肩を押し戻そうとした時にぐいと強く手を掴まれた、両手を今しがたまで桜井を縛っていたネクタイで纒られた。  「え?」  「私の好きにさせていただきますね。羽山さんは大人しくしていてください。朝まで大切に大切にしますから」  触られるところ全てに火が灯りぐらぐらと揺れる。バランスの悪いブロックを積み上げたように揺れる。口の中を桜井に蹂躙される。上あごの奥を舌先で擦られる。ああ、侵食(おか)される。呼吸も苦しくなり涙が滲む。そして自分の内側が奥まで埋めて欲しくてひくひくと蠢いているのが分かる。  「あ、もう……さくらい……」  「羽山さん、その顔は誰にも見せては駄目ですよ」  その瞬間に一番埋めて欲しかった隙間に桜井が押し入ってきたのが分かった、あれだけ頑なに桜井を拒んでいた身体は飲み込むように桜井を受け入れていた。  「んっ、駄目だ。ああっ、羽山さん、お手柔らかに願います」  桜井が笑った気がした。その顔をみて何かがすとんと落ちた気がした。意識がうっすらと消えそうになる。  『ああ、左足が宙に浮いている。揺れている、自分の身体の位置や感覚がない。手はどこだろう。そうか頭の上に二つ並んで縛られているのか。もう全て感覚が曖昧で溶けそうだ』  「んああああっ」      
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