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残花
「私は先に失礼させてもらおうかな」
混雑した居酒屋での周囲の会話がやたらと耳につく。歳をとったものだとため息がでる。
酒に酔って大声で熱く語っていたのは昨日のことのような気がする。あの当時、見送った上司のくたびれた背中に今の自分の姿が重なる。
「順送りだ」そう自分に言い聞かせてゆっくりと立ち上がる。それと同時に奥のテーブルがごとっと音を立てた。
「羽山課長、今日はありがとうございました」
アルコールでほんのりと色づいた顔を綻ばせて頭を下げたのは桜井だ。
誰もが「お疲れ様でした」と紋切りの言葉をかけてくる中、一人立ち上がり頭を下げる。
……ああ、そうだ。
こいつのこういうところだと思った。ぞわぞわと胸の奥で何かが蠢く。腹を内側から撫でられたような感覚が起きる。
ゆらゆらと揺れる淡い炎を腹の奥に感じる。
そんな感情が自分の内にある事などおくびにも出さず「じゃあ」と小さく声にしてその店を出た。
「そろそろ一年か」
ぽつりと声に出た。桜井が羽山の元に来たのは一年前の春、満開の桜がはらはらと散り始めたころだった。
「羽山、ちょっと」
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