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「僕は大丈夫だと思う」
自信満々に答えると、加藤は鼻で笑った。
「水瀬は千紗さんにベタ惚れだからな。付き合った当初なんて『僕らは巡り合う運命だったんだ』とか、惚気てたもんな」
今になれば巡り合う運命とは大げさだったかもしれないが、僕と千紗は本当にそう思ってしまうほど、巡り合わせが良かったのだ。
千紗と初めて出会った当時、僕は会社から現在所属しているマーケティング部門への配属を示唆されていた。
食品栄養学を大学で主に勉強してきた僕は経営・商学には無知で、自ら勉強することにした。
その時参加したセミナーに、千紗も参加していた。
だがその時僕は、千紗の存在をまったく把握していなかった。
テキストに沿って講師が五十人以上の受講者に講義するセミナーだったから、認識しようがない。
僕はセミナー中に何度か質問や発言をしたから、千紗は僕を知り、意識したそうだ。
それを千紗から聞かされたのは、二度目の巡り合わせの時だった。
前回のセミナー講師が少人数グループ制の実践講座を企画したので参加したら、千紗と同じグループになったのだ。
五人で一つグループのはずだったのだが、僕と千紗以外の参加予定者が急遽講義に参加できなくなったため、実践講座は僕と千紗の二人だけで行うことになった。
共同作業が絆を深めるとはよく言うけれども、僕と千紗は初めて会話したにも関わらず、この講座のおかげで意気投合した。
連絡先を交換し合ってもおかしくないくらい親しくなったのだが、互いに奥手だったのか、その日はその場限りになった。
千紗に対して好印象を抱いていた僕は、連絡先を聞かなかったことを後になってしばらく後悔していた。
その後、また何度か同じ講師のセミナーに参加したが、千紗に再会することはできなかった。
仕事の忙しさに追われ、千紗のことを忘れかけていた頃、僕は通勤途中で歩道に落ちていたスマホを拾った。
出勤時間ぎりぎりだったうえに、近くに警察署がなかったため、落し物は仕事帰りに届けることにして、そのスマホを鞄の中にしまった。
昼休憩の時、そのスマホが着信した。
この時こそ、僕が運命の巡り合わせを感じてしまった理由。
そのスマホの落とし主は千紗だったのだ。
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