第一章

12/19
前へ
/62ページ
次へ
5. その後、何度か連絡したものの、千紗に連絡はつかなかった。 千紗に何かあったのだろうか。 不安になり、自宅へ向かう足は速くなる。 「ただいま」と玄関のドアを開けると、リビングに明かりはついていた。 千紗の居る気配もある。 リビングドアを開けると、千紗が慌てたように、片づけをしていた。 「おかえりない。早かったんですね」 キッチンの流しに、千紗が来客用のカップを運んでいた。 「そうなんだ。接待が無くなってさ。誰か来てたの?」 「え? う、うん、そうなの。学生時代の友達が。こっちに来る用事があったから、ついでに寄ってくれたの。ごめんなさい。今日、遅いと思ってたから、まだ夕飯の支度もしてなくて。これから作るね」 「こっちも急遽予定が変わったからごめん。出前でも取ろうか?」 「ううん、大丈夫。すぐ作るから」 「一応、LINEで、延期になったこと送ったんだけど、気付かなかったんだね」 「え? そうだったの? 本当にごめんなさい。あれ? スマホどこだろう……」 千紗がスマホの在り処を身の回りから探し出す。 僕もリビングを見渡してみたが、なさそうだ。 リビングにないなら、あとは寝室の可能性が高い。 「寝室じゃない? 見てこようか?」 僕は尋ねる。 「あ、そうかも。お願いします」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加