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寝室に入り、上着をハンガーに掛けながら、ベッド脇にある棚に目を向けると、予想どおり、千紗のスマホは寝室の充電器に納まったままだった。
スマホに近づき手に取ると、ロック画面に未読の僕の着信とメッセージが連なっていた。
画面に手が伸びる。
さっきの千紗の慌てた態度が気にかかった。
スマホに気が向かないほど、学生時代の友人と話に盛り上がっていたのだろうか。
それは誰?
本人に聞けばいいことなのに、昼間加藤に言われた言葉を思い出してしまう。
『主人の居ぬ間に、千紗さんもヤル事やってたりして』
千紗のスマホの中身をみたいという衝動に駆られる。
ロックを解除しようとする。
だが、僕は咄嗟にその手を止めた。
なんで千紗を疑う必要がある? 僕らは愛し合っているのに。
自分に嫌気を感じた。
「ったく、加藤のせいだ」と吐き出す。
千紗の居るリビングにスマホを持って戻ろうとした時、きれいに整えられたダブルベッドの上に目がいった。
何か黒いものが置いてあるのに気付いたのだ。
それは千紗と夜の営みに使っているあの目隠し用の布だった。
その黒く長細い布は、ベッドの上でとぐろを巻いた蛇のようで、妖艶な空気を醸し出していた。
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