第一章

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寝室に入り、上着をハンガーに掛けながら、ベッド脇にある棚に目を向けると、予想どおり、千紗のスマホは寝室の充電器に納まったままだった。 スマホに近づき手に取ると、ロック画面に未読の僕の着信とメッセージが連なっていた。 画面に手が伸びる。 さっきの千紗の慌てた態度が気にかかった。 スマホに気が向かないほど、学生時代の友人と話に盛り上がっていたのだろうか。 それは誰? 本人に聞けばいいことなのに、昼間加藤に言われた言葉を思い出してしまう。 『主人の居ぬ間に、千紗さんもヤル事やってたりして』 千紗のスマホの中身をみたいという衝動に駆られる。 ロックを解除しようとする。 だが、僕は咄嗟にその手を止めた。 なんで千紗を疑う必要がある? 僕らは愛し合っているのに。 自分に嫌気を感じた。 「ったく、加藤のせいだ」と吐き出す。 千紗の居るリビングにスマホを持って戻ろうとした時、きれいに整えられたダブルベッドの上に目がいった。 何か黒いものが置いてあるのに気付いたのだ。 それは千紗と夜の営みに使っているあの目隠し用の布だった。 その黒く長細い布は、ベッドの上でとぐろを巻いた蛇のようで、妖艶な空気を醸し出していた。
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