第一章

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6. 翌朝もいつもどおり、僕は会社に出勤するために、自宅前の坂を下っていた。 あと少しでバス通りに出るというところまで降りてくると、人の気配を感じた。何気なくそちらに目を向ける。 物陰に、隠れるように人が立っていた。 そしてその人物と目が合った。 僕は「あっ」と思わず小さく声をあげていた。 見覚えがあったのだ。 その人は昨日、自宅の側でぶつかったあの男だった。 ただ昨日とは少し様子が違って見えた。 何よりも顔色がひどく悪い。 男は僕と目が合うと、慌てて視線を反らした。 そして、その場から逃げようとする。 「え?」 逃げられる意味が分からなかった。 「あ、あの…!」 男は僕の呼びかけに更にビクリとして、背を向けたまま走り出した。 僕はあ然として、その去っていく背中を目で追うしかなかった。 だが状況は一転した。 男が突然身体のバランスを崩して、路上にドタリと倒れ込んだのだ。 「え!? ちょ、ちょっと」 僕は慌てて、男の元へ走り出す。 倒れている男に近づき、肩をゆすり、「大丈夫ですか!」と呼びかけた。 だが男はそれに応えられないほど、既に意識がもうろうとしていた。
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