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6.
翌朝もいつもどおり、僕は会社に出勤するために、自宅前の坂を下っていた。
あと少しでバス通りに出るというところまで降りてくると、人の気配を感じた。何気なくそちらに目を向ける。
物陰に、隠れるように人が立っていた。
そしてその人物と目が合った。
僕は「あっ」と思わず小さく声をあげていた。
見覚えがあったのだ。
その人は昨日、自宅の側でぶつかったあの男だった。
ただ昨日とは少し様子が違って見えた。
何よりも顔色がひどく悪い。
男は僕と目が合うと、慌てて視線を反らした。
そして、その場から逃げようとする。
「え?」
逃げられる意味が分からなかった。
「あ、あの…!」
男は僕の呼びかけに更にビクリとして、背を向けたまま走り出した。
僕はあ然として、その去っていく背中を目で追うしかなかった。
だが状況は一転した。
男が突然身体のバランスを崩して、路上にドタリと倒れ込んだのだ。
「え!? ちょ、ちょっと」
僕は慌てて、男の元へ走り出す。
倒れている男に近づき、肩をゆすり、「大丈夫ですか!」と呼びかけた。
だが男はそれに応えられないほど、既に意識がもうろうとしていた。
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