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9.
その女性は僕を見た後、一瞬戸惑った顔した。
だがすぐに合点がいったらしく、「もしかして、倒れた春明を連れて来てくれた方かしら?」と言って、会釈した。
「は、はい‥‥」
突然の知らない女性の登場に、僕も戸惑いながら軽く会釈を返す。
彼女は僕の前を通り過ぎ、大塚に近付いた。
大塚の様子を確認する。
ぐっすりと眠ってはいるが、顔色が良いことに安心したらしい。
ほっとしたように息を零した。
そしてまた僕に向き直る。
「もう少し処置が遅かったら、助からなかったかもしれないって、先生に説明されたわ。春明を助けてくれてありがとう」
「い、いいえ‥‥」
この女性は誰なのだろう?
大塚の母親にしては若過ぎるから、姉だろうか。
いやでもそれにしてはあまりに似ていない。
それなら彼女だろうか?
妻だろうか?
「あ、ごめんなさい。私、中山文香といいます。晴明の学生時代からの友人」
その思いが顔に出ていたのだろう。
中山が答えをくれた。
「それであなたのお名前は? 改めてお礼もしたいから、あなたのお名前も教えてもらえないかしら?」
「え?えっと……」
大塚の手帳を読んでしまったせいで、自分の素性を明かすことに抵抗を感じた。
だって大塚は、千紗と何か関係があるようだ。
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