第一章

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9. その女性は僕を見た後、一瞬戸惑った顔した。 だがすぐに合点がいったらしく、「もしかして、倒れた春明を連れて来てくれた方かしら?」と言って、会釈した。 「は、はい‥‥」 突然の知らない女性の登場に、僕も戸惑いながら軽く会釈を返す。 彼女は僕の前を通り過ぎ、大塚に近付いた。 大塚の様子を確認する。 ぐっすりと眠ってはいるが、顔色が良いことに安心したらしい。 ほっとしたように息を零した。 そしてまた僕に向き直る。 「もう少し処置が遅かったら、助からなかったかもしれないって、先生に説明されたわ。春明を助けてくれてありがとう」 「い、いいえ‥‥」 この女性は誰なのだろう?  大塚の母親にしては若過ぎるから、姉だろうか。 いやでもそれにしてはあまりに似ていない。 それなら彼女だろうか? 妻だろうか? 「あ、ごめんなさい。私、中山文香といいます。晴明の学生時代からの友人」 その思いが顔に出ていたのだろう。 中山が答えをくれた。 「それであなたのお名前は? 改めてお礼もしたいから、あなたのお名前も教えてもらえないかしら?」 「え?えっと……」 大塚の手帳を読んでしまったせいで、自分の素性を明かすことに抵抗を感じた。 だって大塚は、千紗と何か関係があるようだ。
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