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「当の本人はあんな状態だし、後で誰が助けてくれたのか聞かれたときに分からなかったら、私が怒られちゃうから」
僕は答えられずに、眠っている大塚と中山の顔を交互に見た。
千紗の夫である僕が名を明かすとどうなるのだろう?
いや逆に、明かすと何か分かる?
中山は僕を見て、首を傾げた後、「……もしかして」と言った。
「……水瀬彰人さん?」
中山にズバリ名を言い当てられた。
どきりとしてしまう。
僕の正直過ぎる反応が答えになったらしい。
「……本当に、そうなのね」
中山は僕の顔をマジマジと見てから、眠っている大塚をじっと見つめ始めた。
「……因果なものね、春明。水瀬さんに助けられるなんて」
意味深な中山の言葉に、大塚と千紗の関係が、とてつもなく気になってくる。
「あの……、中山さんは、大塚さんと千紗のこと、何か知っているんですか?」
僕の質問を聞いた中山は、少し驚いた表情を見せた後、口角をあげて微笑んだ。
「なんだ……。千紗さんの名前を出すあたり、水瀬さんも実は感づいていたの?」
ドクドクと不快な鼓動が高まっていく。
「いつか、この日が来るのではないかと思ってたの」
含みある彼女の返しに、僕は何も言えなくなった。
「千紗さんが本当に愛しているのは、水瀬さんと春明、どっち‥‥かしらね?」
僕は咄嗟に眉間にしわをよせた。
中山は僕の反応を楽しむように、また不敵な笑みをしてみせた。
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