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2.
病室から通話可能区域へと移動した僕は、加藤に電話をかけなおした。
仕事のことだとは分かったが、気持ちはそれどころではない。
遅刻した理由はそこそこに、今起きている状況を加藤に説明した。
『千紗さんにストーカーね。そしてもしかしたら、そのストーカー男と不倫しているかもしれないと?』
「そうなんだ。どうしたらいい? 千紗に聞いてみるのがいいのかな?」
『まあ、落ち着け。まずはもう少し状況を確認した方がいい。千紗さんに確認するのは最後にしよう』
「どうして? 千紗に聞いた方が早いじゃないか」
『もし万が一、千紗さんがそのストーカー男に本気だったらどうする? 水瀬はそれを受け止められるのか? 問い詰めた結果、別れを切り出される可能性だってあるんだぜ?』
「ま、まさか」
『とりあえず、無断欠勤のことはうまくフォローしておいてやるよ。まずは千紗さんよりも、相手の方を潰した方が自分の家庭を守るには良いかもしれない。
そのストーカー男と中山っていう女から状況を確認するんだな。まだ千紗さんが本当に不倫しているのか、確証はない。モヤモヤするくらいなら、当たってこいよ』
「ああ、分かった」
加藤に幾分、冷静さを取り戻させてもらったところで通話を終える。
気合を入れ直し、大塚の病室へ戻ろうとすると、すぐ目の前に中山が立っていた。
「電話のお相手は、あなたのご友人?」
また不敵な笑みを見せた後、「頼もしいご友人ね」と続けた。
どうやら、声がデカい加藤との話は筒抜けだったらしい。
先手を取られたようで、気分が悪くなる。
「盗み聞きですか? 趣味が悪いですね」
ぼくは嫌悪感を隠さずに、中山にぶつける。
「いやだわ。話を聞いている限り、私たちは同志でしょう?」
「同志?」
「水瀬さんは、春明と千紗さんを離れさせたい。私も同じってこと。そのためには、お互いに情報共有しないとね?」
中山と仲間になるのは癪だったが、まずは話を聞くなら、中山からなのだろう。
当の大塚は、まだ眠っているのだから。
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